最高裁判所第一小法廷 昭和51年(あ)2117号 決定 1977年2月01日
本籍
韓国
住居
東京都板橋区大山町五五番地五号
金融業
鄭一鶴
大正一四年一二月一三日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五一年一一月五日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人小林茂実の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 団藤重光)
○昭和五一年(あ)第二一一七号
上告趣意書
被告人 作田政成こと 鄭一鶴
右者に対する所得税法違反被告事件につき次のとおり述べる。
昭和五二年一月一四日
右被告人弁護人
弁護士 小林茂実
最高裁判所
第一小法廷 御中
記
原判決は、刑の量定が著るしく不当であり、破棄しなければ著るしく正義に反するものであり、左記事情を考慮の上更に寛大なる御判決を賜り度い。
(一) 本件において被告人が脱税した所得税額は昭和四六年分、四七年分合計一、八四八万円余である。
右金額は、決して少いとは言えないが、然し、日本国の納税の現状から見て、厳罰を科して処断しなければならない程の金額ではないと考える。
第一審の判決の特に罰金刑は苛酷であり、これを維持した原判決は破棄されるべきである。
(二) 尚、右脱税額は完納してはいないが、被告人は完納すべく日夜努力しており、又その裏付けの資力、財産もある。(証拠説明書参照)
すなわち、脱税による国家の損害は補填され得る状況にあり、又国税庁当局も、被告人の誠意を認め、多少の年月をかけても被告人の完納を期待してその時期を猶予している。尚、被告人がすでに納めた金額は一九〇万円である。被告人が直ちに完納できない事情としては、経済事情の急変により被告人自身も七千万円余の不渡債権を有するに至つた。
(三) 被告人は本件により、納税義務の重大なることに気付き改心し、自己の業務を会社組織に改め、二度とかかることのないように決意している。
(四) 被告人には妻子のある家庭があり、皆被告人の身上を心配しており、とくに、被告人は現在病弱である。
従つて、罰金を収めることができず、留置されることになると、被告人に取返しのつかないことになる虞がある。